『秋霜烈日』
「検察庁法」の改定が、大きな議論を巻き起こしています。

ーーーーーーーある『贈収賄事件』--------
昭和二十九年『造船疑獄』という事件があり、東京地検特捜部は数名の国会議員を逮捕・起訴した。
このとき佐藤栄作(当時自由党幹事長 のちに内閣総理大臣)も収賄罪で逮捕する方針であった。
しかし、検察も行政権の一部であり、法務大臣による『指揮権』が発動され逮捕は中止された。
ーーーーーもうひとつの『贈収賄事件』------
昭和五十一年の『ロッキード事件』、東京地検特捜部は受託収賄罪などの容疑で元内閣総理大臣の田中角栄を逮捕・起訴した。
当時の内閣総理大臣であった三木武夫は、『指揮権』を発動させなかった。
ただこのことが自民党多数派の反感を買い、三木に退陣をせまる「三木おろし」が起こる。
ーーーーーーーーー今回の改定ーーーーーーーーーー
内閣は検察に対する最終兵器ともいえる『指揮権』を有している。
しかし、当然のことながら、これの行使に対して世論の批判は極めて強い。
今回の「検察庁法」の改定により、検察の人事に内閣の裁量が組み込まれるとすれば、それは内閣が安全に行使できる『第二の指揮権』を手にすることに他ならない。
言い換えれば、この制度は不正から政権を守るための『ビルト・イン・スタビライザー』となる。
ーーーーーーーーある『回想録』---------

この本は「ミスター検察」と呼ばれた伊藤栄樹氏の著書である。
氏は上記二つの贈収賄事件にも関わられ、検事総長まで務められたが、病魔に襲われ任期半ばで退任された。
本著は退任後、病床にて記された新聞連載をまとめたものである。
昭和六十三年の本であるが、今回の件で思い出し書棚の中から引っ張り出してきた。
【秋霜烈日】
「しゅうそうれつじつ」と読む。秋に降りる霜と夏の激しい日差しのことで、刑罰や志操の厳しさにたとえられる。検事のバッジの形は昭和二十五年の法務総裁訓令で「紅色の旭日の周囲に白色の花弁十二弁及び金色の菊葉四葉を配する」とされている(カバーの記章)。しかし、霜と日差しを組み合わせた形に似ていることと、厳正さを求められる検事の理想とが重なり合い、「秋霜烈日のバッジ」ともいわれるようになった。(『秋霜烈日』伊藤栄樹著より)
ーーーーーーーーーそして今ーーーーーーーーーー
「検察庁法」の改定が、大きな議論を巻き起こしています。
「巨悪は眠らせない」という伊藤氏の言葉が、聴こえてきます。
検察の矜持が守られますように。
以上 学長でした